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魂の叫び~響け、届け。~

パピヨン PHASE-3

珍しい現象がおきている。




ソファに深々と身体を預けてうたた寝をしているこの部屋の主の姿を、
キラはまじまじと見つめた。



イザークさんが僕の前で眠っちゃうなんて・・・

よっぽど疲れているんだろうな。




白くて透明感のある肌。

柔らかい色彩の睫毛。

意思の強さを湛えた瞳は、
軽く伏せられた瞼に今は隠されている。



そういえば・・・こんなにじっくり彼の顔を間近で見るのは初めてだ。



白くて滑らかで綺麗な肌、なのに・・・。


無意識に伸ばされたキラの細い指先が淡い緋色を辿る。


額から右頬へ斜めに走る大きな傷痕は、
以前戦闘で剣を交えた時に自分が付けたものだとディアッカに聞いて・・・知っていた。


謝罪するきっかけと勇気を持てぬままにいる。
僕は・・・・ずるい。



優しい指の感触に、アイスブルーの瞳がゆっくりと開かれた。



何もかもを見透かされてしまいそうな静謐な煌めき。


「キラ・・・?起きたのか?

 ―――いかんな、俺までつられて眠ってしまったらしい」




どうした?


黙り込んでいたキラに、視線で訴えかける。




「イザークさんは、僕を許せるの?こんなに・・・酷い傷を君につけて、
 ・・・大切な、仲間を殺してしまった僕を」


「俺もお前の味方や友達を殺したはずだ。
 そんな俺を、お前は許せないとそう言うのか?」

「・・・ち・・がう、そうじゃない・・」


真っ直ぐにぶつけてくる強い視線を受け止めきれず、
キラは目を逸らす。




「あれは・・・戦争で、俺達がいたのは戦場だった。
 生きるか死ぬか、目の前にある一瞬だけを考え本能のままに動く。
 その先にある誰かの哀しみを想像しながら銃は撃てない。
 人はそんなに器用でも強くも・・・ないからな」


凛とした響きの中に優しさを溶かしたその声は、
固く凍りついたキラの心を暖かく包み込む。


「俺は仕方がない、と言う言葉は好きじゃないが・・・
 あの時はああするしかなかった。俺も、お前もな。
 だからもう自分自身を許してやれ。
 お前に出来る精一杯をやった結果を悔やむのはよせ」




ずっと




ずっと





誰かにそう言って欲しかったのだと、
頬を伝う熱さが教えてくれた。




「イザークさん、・・・・・ありがとう」




「お前はなんだか、見ていて危なかっかしいな」






軽い眩暈。



蝶が甘い蜜の香りに惹き寄せられるように。






「イザークさ・・・」





それは、触れるか触れないか。

掠めるような口付けだった。






時が止まったような錯覚。





「――――さん、はいらん。どうにも背中がムズ痒くてたまらんからな」





*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  






CE72年2月




人工とは思えぬほどの青さを湛えたアーモリーワンの港には、
進宙式典を済ませたばかりのザフトの新造艦ヴォルテールが係留されていた。



「ジュール隊長は傷痕をお消しになられたのですね」


プラント最高評議会議長へと正式に就任した少女は、
銀の月を思わせる青年を見てにこりと微笑みかけた。



「あ、はい。
 傷があると・・・あいつが気に病むようなので」


「―――そうですか。
 キラをあなたに託したのは間違いではなかったという事ですわね」


「お前、キラといて変わったな。随分と柔らかくなったんじゃないか?」

初めて見る親友の表情に、ディアッカはまじまじとその顔を覗き込んだ。

「ふん、貴様はもう少し硬くなった方がいいんじゃないか?
 オフ期間の数々の醜聞は俺の耳にも入って来ているぞ!」


ディアッカが応戦しようと向き直ろうとしたその時、
来訪を告げるノックの音が躊躇いがちに響いた。



「まぁ・・・!以前お召しになった時も思いましたけれど、
 とてもよくお似合いですわ」

「おっ、“赤”じゃん!いいね~」



「あなたは本日付けでジュール隊へ配属になります。
 本来の能力を考慮して白服をお奨めしたいのですけれど・・・」

「っ、ラクス!いくらMSに乗れると言っても僕は・・・」

「・・・と仰っるので、『ではせめて赤服をお召し下さい』とお願いしましたの」

「うちの隊の“赤”は・・・っと、
 シホ、シン、レイ、それからルナマリアか。
 フリーダムのパイロットだった事は当面伏せるとしも、
 確かに緑を着せるわけにはいかないよなぁ~」


ディアッカは腕を組むと、うんうんと頷いてひとりごちた。




「ザフトの軍服に袖を通す意味、わかっているんだろうな?
 ―――本当にいいのか?」


ピタリと合わせられた視線を、キラは真っ直ぐに受け止める。
気持ちがちゃんと、目の前の後見人に届くように願いを込めて。


「僕が今、ここにこうして立っていられるのは、
 ラクスや・・・イザークがいてくれたから。
 2人が守りたいと思うものを、守りたい。
 これは僕自身が選んだ道なんだ。だから僕なら大丈夫だよ」


「キラ・・・ありがとうございます。
 ジュール隊長“あれ”も持って行って下さいね。」


イザークはラクスの言葉に一瞬瞠目すると、会釈で御意を伝えた。


「・・・では今からお前は俺の部下だ。
 赤を纏うからには、それに恥じぬ働きで周囲の者を圧倒してみせろよ」


「うん」

「うん、じゃないだろ!はっ!だ、はっ!」

「あ、そうか、はい!」



見よう見真似なザフト式の敬礼にイザークの表情が緩む。


「そう言えば足付き・・・
 いや、お前の乗っていた艦はアークエンジェルというらしいな」

「え?うん・・・?」

「ふっ【天使の方舟】か。
 なるほど、クルーは皆、天使という訳か?うまい名前をつけたものだ」


イザークはそう言うと、目を細めてキラの額を軽く小突いた。



「うっわーーーオレ、砂吐きそう。
 これはもう艦内大騒ぎ間違いナシってやつだな。
 目のやり場に困るぜ・・・」



溜め息混じりにつぶやいたディアッカに、
歌姫は肩を揺らして小さく笑った。




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■PHASE-4■へ続く


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